ダライ・ラマ法王

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ダライ・ラマ法王 アメリカ訪問

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(1998/11/10 ワシントンDC)

1998年11月10日、ダライ・ラマ法王はアメリカを訪問し、ホワイトハウスでクリントン大統領夫妻、ゴア副大統領と会談した。会談後のホワイトハウスの声明によると、大統領は非暴力で中国政府と対話を進めようとするダライ・ラマ法王の努力を歓迎し、チベット独自の宗教・文化・言語の維持、人権擁護への強い支持を繰り返した。

1998年6月、クリントン大統領の中国訪問の際、江沢民中国国家主席は自ら、ダライ・ラマ法王の話題を出した。ようやく「対話」への一筋の光が見えたようであった。しかし、アメリカがダライ・ラマ法王と中国の「対話」をこれからも後押しするという姿勢を明確にした今回の会談の直前、中国政府は「ダライ・ラマとの会談は、米中関係を傷つける」と会談に対する不快感を表明、牽制した。そして今、世界は新しい年を迎えたが、チベット問題は何の進展も見られていない。

訪米中、ダライ・ラマ法王はアメリカン大学で講義し、俳優のリチャード・ギアやゴールディ・ホーンら約5,000人の聴衆がつめかけた。これは、米国にもチベット仏教文化、ダライ・ラマ法王の精神性に深い関心を持つ人が多くいることを表している。

以下は、クリントン大統領との会談後のダライ・ラマ法王の声明であるが、この時点では、アメリカはイラクを攻撃していない。クリントン大統領の任期はあと2年、外交問題で何とか名誉挽回をはかりたいのだろうという意見もあるが、チベット問題解決への鍵を握る人物の1人であることも否めないのである。

クリントン大統領との会談後のダライ・ラマ法王の声明(1998/11/10 ワシントン)


ちょうどクリントン大統領に会ったばかりです。心からの暖かいもてなしとチベットの現状に関心を持っていらっしゃることに深く感動しました。大統領は、チベット人が苦境に立たされていることに対して関心を持ち続け、チベットの現状理解のために和解交渉に向け努力されており、私は1チベット人として大統領に深く感謝しています。私は、クリントン大統領をチベット人と中国人双方の友人だと見ております。また、ヒラリー夫人と再会でき、とても喜んでおります。夫人は、人道問題に熱心に取り組んでおられ、私は大変感嘆しております。同様に、ゴア副大統領との会談にとても期待しております。私は何年も前からゴア氏のことを知っており、地球規模のヴィジョンを持った指導者として尊敬しております。

北アイルランドからボスニア、中東、台湾と中国との関係、そしてチベットに至るまで、世界中の様々な地域で起こっている紛争の解決にクリントン大統領が身を呈して努力していることに、私は大変感服しております。私は、経済的、軍事的な強さのみが、1つの国家の偉大さを定義しないことを信じます。まさに、クリントン大統領が世界に示してきたような、平和と自由と正義への揺るぎない熱意が必要なのです。

今回はクリントン大統領から、6月北京で行われた江沢民主席との会談のこと、また中国政府とチベット亡命政権代表団の対話実現に向け努力を続けることを手短にお聞き致しました。私は、江沢民主席がようやくクリントン大統領と話し合いをすることに意欲を見せたこと、江沢民主席の「対話と交渉のための扉は開かれている」という公式声明に勇気づけられました。江沢民主席は、中国にとって良き前兆となるばかりか、中国の国際的な地位を高めるような最初のステップを取ったのです。江沢民主席は、チベットについても個人的に興味があることを示しました。

私は、チベット問題を解決するための手段として対話へのプロセスに参加する意向を伝えました。それゆえに、北京でのクリントン大統領との記者会見で、江沢民主席が私からの明確な公式声明を求めました。それについて私は、江沢民主席の声明を喜んで受け入れ、それにお答えする用意ができているということを何の躊躇もなくはっきりと伝えました。私は、誤解の機会を制し、中国の首脳陣からポジティブな回答を受け取るためには、そのような非公式な声明が出される必要があると思うのです。

私は、チベットの独立を求めているわけでもなく、中華人民共和国からの分離を要求して活動しているのでもありません。自治、つまりチベット人が固有のアイデンティティーと文化を維持できる本物の自治に賛成です。私は、自分自身のいかなる特権も地位も求めておりません。それどころか、何十年か経ち自分の中ではっきりとわかってきたのは、チベット問題が解決した時は、いかなる公的な立場を持つことはないということです。私の中道的アプローチが中華人民共和国の安定と統一に貢献するであろうことを心から信じております。この基本となるアプローチは、1970年代初頭の文化大革命さなかの中国首脳との対話実現が全く見えない時期に考え出されたものです。私は、このアプローチを採用することにしました。なぜなら、このアプローチこそが、中国・チベット双方の長期に渡る利益を導くと信じているからです。過去40年の経験やその他もろもろのことで、チベット人と中国人の間に深い不信の念があるのは良くわかります。この双方の不信は1日で消えるものではないでしょう。心からの対話を通じてのみ、この不信はかき消されてゆくのです。ですから私は、このような対話に入るという江沢民主席のオファーがあれば、すぐに受け入れる用意があるのです。双方の思いやり、非暴力と和解に向け一層努力することで、私たちは共に、チベットに平和と安定を、そしてチベット人と中国人との間に永続的な調和をもたらすことが出来るのです。

チベット人の現状を理解し、援助して下さっているアメリカ合衆国政府および国民の皆様に、深い感謝の意を表したいと思います。

1998年11月10日